研究内容
① 【創薬研究】エピジェネティックス x 創薬研究 → 新規治療薬開発
ポリコーム抑制複合体(PRC2)の酵素サブユニットEZH2は、転写抑制型のヒストン修飾であるH3K27me3を担う主要酵素であり、その機能異常は白血病である骨髄異形成症候群(MDS)といった重篤な疾患と密接に関連しています。我々は、EZH2機能喪失型MDSのマウスモデルを構築し、EZH1が疾患の維持に不可欠であることを明らかにしました。興味深いことに、野生型においてEZH1の欠損は影響が限定的であり、EZH1およびその制御機構は副作用の少ない創薬標的として有望です。現在、BioIDプロテオーム解析やCRISPRスクリーニングを駆使してEZH1制御機構の詳細を解明し、その制御分子を創薬へと応用する研究を進めています。
現在は、MDSを中心にPRC2関連のがんを対象としています。しかし将来的には、疾患iPS細胞を実験モデルとして導入し、社会問題となっている精神疾患(うつ病など)や発達障害(ASD, ADHDなど)を含む幅広い疾患領域への展開を視野に入れています。
担当:青山

② 【老化研究】エピジェネティックス x 老化研究 → 健康寿命延伸
老化は従来「避けられない自然現象」と捉えられてきましたが、近年では「治療可能な病気」として再定義されつつあります。老化細胞は増殖を停止し、老化関連分泌表現型(Senescence-Associated Secretory Phenotype, SASP)と呼ばれる炎症性因子を分泌して周囲の組織に慢性炎症や老化を波及させ、加齢性疾患の発症を促進します。当研究室では、老化細胞と正常細胞のヒストン修飾を解析し、老化細胞を選択的に除去するセノリシス薬やSASP制御による新しい介入戦略の開発を目指しています。老化細胞を除去することができれば、がんをはじめとする全ての老化関連疾患の予防につながることが期待されます。
さらに「エピジェネティックメモリー」と呼ばれるクロマチン修飾の記憶にも注目しています。高齢個体の細胞に蓄積されたヒストン修飾を解析し、老化に伴う「エピジェネティックメモリー」を明らかにすることで、老化制御の根本的理解と健康寿命=限界寿命の実現に向けた基盤を築いていきます。
担当:中山田さん

③ 【食品科学】エピジェネティックス x 食品科学 → 健康寿命延伸
コーヒー摂取は長寿、心血管疾患リスク低下、糖尿病予防など、多様な健康効果が疫学的に報告されています。しかし、コーヒーによる効果に対するエピジェネティックス(ヒストン修飾)の寄与を明らかにした研究はほとんどありません。我々のヒストン修飾解析から、コーヒー処理によって、多くのヒストン修飾が顕著に変化することを見出しました。中には、健康や寿命との関連が報告されているヒストン修飾も含まれており、ヒストン修飾変化はコーヒーによる健康効果において重要な役割を担っているものと考えられます。この発見をヒストン修飾標的薬との併用による治療効果の増強や健康寿命延伸を目的とした予防医療戦略の構築へと発展させていきます。
担当:趙くん、眞田さん

④【その他】
がんに関連する分子ネットワークの解明を進めています。近接依存的ビオチン化法(TurboID-BioID)を用いて相互作用分子を網羅的解析することにより、AKT/mTORシグナル活性化やアポトーシス制御との新規な関連性を明らかにしつつあります。これにより、ALK陽性リンパ腫をはじめとするがん細胞の増殖や生存優位性を支える仕組みの一端を提示しています。
担当:田口くん、東くん
⑤【共同研究】
共同研究も展開しており、疾患発症メカニズムの理解、創薬研究、新規治療戦略への応用を目指しています。





